AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する

偽りの

 私にはしなければならない仕事がある。その仕事とは何か…。
それは、時が来るまで誰も知る事は無いだろう…。

 私が生まれた家の左隣の家。それが彼の生まれた場所。
私はその場所へ幾度となく足を運ぶ。
「ジニア、いるんでしょ?開けてちょうだい」
玄関の前でいつものように戸を叩く。そしていつものように出渋る彼。
「また扉壊しちゃうけどい〜い?」
仕方なく篭に入れたハンマーを手に取り構える私。
すると慌てて彼が出てきた。
「ローラ…お願いだからこれ以上家を壊さないでくれ…」
呆れ顔。けれど私の存在を決して拒否していない。
「だって出てくるの遅いんだもの。放っておいたら開けてくれないでしょ?」
 いつものように堂々と家に入る。けれど家の中にいつもとは違う奇妙な気配を感じる。
「何で毎日毎日来るかなぁ…大体昨日、「明日僕出掛けるから来てもいないよ」って言ったはずなんだけど」
それがあの人物と別人であればそんなに気にならなかっただろう。だけど。
「でもいたじゃないの。だけど初めてね、居留守を使ったのは」
どうしても確かめなければならない。そう思った私は台所を通り過ぎ、階段を上っていく。
「ローラ、勝手に上がらないでくれ。そろそろ出掛けなきゃいけないんだ」
彼の冷静な声の中に焦りを感じる。私は手を掴まれないように急いで階段を駆け上る。
「やだ。今日は大掃除しに来たんだから出掛けるなら出掛けなさいよ。留守番しててあげるから」
「ローラ!!」
目的地。遠慮無しにドアを勢い良く開けたその先には…
「!………」
もう一人の彼…いや、彼女がいた。
ジニアと全く同じ美しい銀髪、整った顔立ち、青い瞳。私は彼らが双子である事を知っている。
彼女はあまりの勢いに何事かと驚いているようだった。
だけど驚いたのは私の方。あの悲劇が頭を過ぎり、心臓が大きく脈を打ち出す。
「ちょっとジニア、なにコソコソと女の子部屋に呼んでんのよバカ!って……えっ?」
白々しくも不思議そうな顔をする私。そして彼女と彼の顔を何度も見比べる。
「………はぁ、面倒だ……」
肩を竦める彼。偶然出会ったなんて事は有り得無い。誰が二人を引き逢わせたの…?

 応接間。珍しくジニアが紅茶を淹れてくれる。
向かいには彼女、右には彼。テーブルには紅茶とお菓子。紅茶を口に含み、話をきり出す。
「どういう事?アンタ兄弟いたの?」
「そう、僕の双子のお姉さん。幼い頃に生き別れた、ね。」
彼女の顔に蔭りが差す。今彼女が何を考えているのか私には分からない。
「それじゃあこれから一緒に暮らすの?」
「さぁ、暫くは一緒に暮らすよ。だけどその先は分からない。」
チラリと姉に目を配る彼。姉は弟を睨み付ける。
「そうなんだ…あの、ジニアのお姉様はじめまして、私ローラ・フランって言います。仲良くしてくださいね。
それであの…お姉様のお名前は…?」
少しの沈黙の後。
「クレア」「リリス」
ほぼ同時に重なる異なる名前。ジニアが呆れた顔をして嘲笑う。
「私はリリスよ。だけど仲良くするつもりなんて無いから」
意地悪な言葉。だけど彼女の瞳は真っ直ぐ私を見ている。
リリスは「彼」の純粋な部分なのかもしれない。
そう言うと彼女は紅茶を飲み干して二階へ上がってしまった。
「馬鹿なやつだね。姉さんって。ローラ、「リリス」は育てられた場所で付けられた名前で、「クレア」が本当
の姉さんの名前なんだ。ま、名前なんてどうだって良いけど。でも人攫いに付けてもらった名前の方を大事に
してるのって笑えるよね」
また。ジニアが醜く嘲笑う。まるで愚かな自分を嘲笑うかのように。あの時の彼のように。
「姉さんの事そんな風に言っちゃダメよジニア。私お姉さんって良い人なんじゃないかって思うの。
だから好きになれるかもしんない。だって裏表なさそうだもん。」
「ローラも馬鹿…「お前となんか誰が仲良くするかー」って言われたのに好きになるって?おめでたい奴」
「あら、私ジニアも好きよ。例えおっそろしい程の裏表があったとしてもね」
本当に。貴方の弱い所も醜い所も欠点も。だから自分を憎まないで。全てを憎まないで、お願い。
本当の想いは重いけど、それを伝えるには今の私には相応しくない。だから軽々しく口に出す。
「悪かったな裏表人間で…」
言われるのに慣れていないのか、居心地悪そうに彼は言った。

 三日後。それまでリリスがいる事以外何も変わらぬ日が続いた。
だけど私の知らない間に何かが起きたようだった。
リリスの腕に包帯が巻かれていた。血が滲んでいる。
「どうしたのリリスさん!?」
慌ててリリスに駆け寄る。
「あなたに関係無い。少しドジっただけよ」
何をどうドジったのか。そこまで血が出るなんて誰かにやられたとしか思えない。
「包帯、取り替えます」
テーブルの上にある薬箱に手を伸ばそうとして遮られた。
「いいの、自分の事は自分でできるから。」
そう言って彼女は薬箱をベッドの上に置き、腕に巻き付けた包帯を解いてゆく。
疲れた顔。そして悲しそうな…。
この三日間の間にジニアから聞き出したキーワードが一つある。
暗殺ギルド。
私は詳しく知らない、けど、彼女がそこにいたというならその傷は同業者か恨みを持つ者に付けられた可能性が
高いだろう。だけどやはりそれ以上の事は分からない。
 包帯を解き終え、真っ赤に染まったガーゼをめくったのを見てゾッとした。
想像はできていたが、ぱっくりと開いている。腕の一番高い部分を布できつく縛っていたが、やはり完全には
止血できていない。
ジニアはこれを見たはずなのに何故回復術を施さなかったのか?
それともリリスが拒んだのか?
私は慌ててジニアの仕事場に戻り、高品質の水晶を手に取りリリスの元へと走った。
「ちょっと、それ高いんだぞ!」
ローラの手元に気付いたジニアは小さく叫ぶが構っている暇は無い。
ドタドタと階段を上り、彼女の部屋の戸を再び開ける。
「私、少し治療術使えるんです!」
ハァ、ハァと息を整えている間にジニアが階段を上ってきた。
「ローラ…人の商売道具持ち出すなんてダメだろ?」
彼が怒っている。けど私だって言いたい事がある。
「どうして治療術使ってあげないの?すんごく痛そうじゃない!」
私より彼の方が、いや、彼は様々な術について誰よりも熟知している。
でも必要な時に使わないならあって無いものと同じ。
それなら水晶の力を借りて、しないよりはマシ程度な治療術を私が施すまで。
そう、それを売れば5ヶ月は楽に暮らせる程の価値を持つ水晶でほんの少しの止血をね。
 強気な私の顔を見て彼の方が折れたようだった。
「分かったよ…僕がやる。もう、ローラといると本当にロクな事無いなぁ」
良かった。思い通りに事が運んで。だけど私は本気で水晶を使うつもりだった。
「ちょっと、私は嫌よ。アンタなんかに恩着せられるなんて…。死んだ方がマシだわ」
「と言ってますが…」
ジニアがほらねとばかりに振り向く。じとーっと彼を睨む私。
「はいはいローラ様…。姉さん、僕の治療が嫌と言うなら強制的にローラの阿鼻叫喚治療術に移るけど、
それでもいい?」
「ちょっと!それ酷過ぎじゃない!?…そりゃ確かに逆に傷広げちゃって大騒ぎになった事無い事も
無いけど…。」
昔ジニアに治療を施した時の話だ。まぁ実はわざとだけど…。
語尾を弱める私の声に真実味が表れてしまったらしく、顔を青ざめさせる姉。
その後彼女はすんなりと彼の治療を承諾した。

 それから数日。腕の傷が治るまでに、彼女は細身の体にいくつもの小さな傷を付けていた。
そして毎日荒らされる家。連日の家の掃除に私もジニアもうんざりしていた。
「なんかこれ以上掃除しても意味無いかも。どうせまたお客が来るんだし」
箒を放り投げてしゃがみ込むジニア。そんな彼に提案する。
「ねぇ…危ないから私の家に来なさいよ。いつかジニアもリリスさんも死んじゃうわ」
本当に歯がゆい。正体を明かす事ができるなら遠慮無く保護できるのに。
「そんな事したらローラの家族まで巻き込んじゃうよ。それに僕達そこらの自警団より強いから大丈夫だよ」
「私、この家出る。」
今まで寝ていたはずのリリスが、私達がいる部屋の前まで足を運んでいた。
「何、可愛い弟の為にかい?」
姉を馬鹿にしたようにおどける弟。
「バッカな弟ね」
弟を馬鹿にし返すとちらりと私を見た。
ジニアは姉に何かを感じ取ると、慎重な面持ちを作って切り出した。
「ローラ、もうこの家に来るな。お前にもしもの事があっても助けられる自信がない」
…そういう事ね…。もう監視を続けるのは難しいだろう。この姿では。
「そっか…じゃあ私…自分の家にいるから、何か困った事があったら遠慮せず来なさいよ。」
「分かった。じゃあな」
ごく普通の別れの挨拶。だけどこれでもう彼らの傍にはいられなくなった。
大体無理を言って傍にいてもこの姿であの力は見せられない。本当に足手まといになるのがオチだ。
それならば…影ながら見守るしかない。
「しばらくお別れよ。だけど心配しないで、あの御方は貴方を見捨ててないんだから」
彼らの家を眺めながらそう呟くと、私は風に溶けていった。

「何だよ、これ…」
俺は、間違っていたのか?
俺は、俺は…!!
「ゼスファーク…お前は何者だ?お前に一瞬にして多くの生命を壊す権利が、あったというのか?
仮にも神だから、神ならば全て思い通りにすれば良いと、本気で思っていたか?」
全知全能の有翼の神が、堕ちた慈悲の神を責める。
そうだ、俺は神だ。
だから殺した。愚かなる民を
「ユリクシル…裁きの時だ。ゼスファークに安らかなる眠りを」
「………」
叡智の女神と民に親しまれ呼ばれる女神が無言で裁きの剣を構える。
「ゼス…大丈夫だから……」
そう、悲しい瞳で見つめながら、女神は裏切り者の心臓をめがけ、思いっきり剣をついた。

女神は有翼の神に向かって頭を垂れて嘆願する。
「ナスラ様。ゼスはずっと悩み苦しんでいたのです。いつも、死んでゆく者達の痛みを感じていたのです。
あの人が望んで虐殺したとは到底思えません。傍に居た私が証言します…。
だからもう一度ゼスにチャンスを与えて下さい!」
「何故?殺された者は。神に拒絶された者達はどうするのだ?人神故に次を与えたとして、
人神に殺された者達に次を与える事など不可能なのだぞ。」
約束したはずだ。手を下してはいけないと。と、有翼の神は言った。
「ならば、やり直せる彼にはやらねばならない事があるでしょう。ナスラ様。
ナスラ様はかつてこう仰りました。『存在する全ての者は必ず過ちを犯す』と。
ゼスだって例外では無いはずです。過ちを犯したが故に次に生かせる物があるはずです。
もし、もしもゼスが再び戻る事があるなら、私が正しい道へと命を懸けて導きましょう。」
ユリクシルは必死に食いついた。彼が過ちを犯したのは悲しい事実。
だけど、そこへ至るまでの経緯を私は知っている。安らぎとは程遠い民の生活。
一部の者達による、非人道的な行い。欲に溺れ、這い上がる事を忘れた愚人。
そして何より……神の声が聞こえなくなった民。涙、血、悲鳴…その影にほくそ笑む悪魔に魅入られた者達。
『狂ってる。理想とかけ離れてる。どうして皆生まれなければならない?生まれなければ、苦しむ事も無いのに』
いつも彼が呟く言葉。既に何百年も前から彼の心は悲鳴を上げながらひび割れ、壊れていたのかもしれない。
「ナスラ様…何故人は生きているのでしょうか?」
感化されたのかもしれない。ふと、思い出したように呟く。
「知る必要は無い。知らぬ方が良い。私とて単なる駒なのだから。」
「駒…?」
「我も他の時空では人と同じだ。延々と続くループ。ユリクシル、この世界は単なる『神』の戯れの一つだ。
小さな別の時空を手玉に取って観賞し、楽しんでいる。されとてその『神』の世界も、別世界の神によって
創られ観賞されているだけの物やも知れぬ」
馬鹿な。ではこの命も、民の命も悪戯に造られた……それが本当ならと女神は絶望した。
人々が苦しんでも、殺し合いをしても……それは全て『神』にとって造作もなく。展開の一つであると言うのだ。
この世界を見ている『神』は、楽しんで戦争を眺めているのかもしれない。平和を嫌っているのかもしれない。
「だから我々は手を下してはならない。小さな命をなるべく消さぬ為。統一、管理をしては観賞している神は
面白くないのだ。だから神は人に欲を与え、醜さに溢れた世界を眺め、せせら笑っているのだ」

「そうだな……良かろう。ゼスファークを再生しよう。」
それは唐突に。頑なだった主神がゼスファークの再生を許可したのだ。
「我々とて容易い命だ。『神』にとっては生きようが絶えようが興味の無い出来事なのだろう。
幸い我には力がある。ゼスファークの記憶もある。可能だ。」
「それでは…!」
「だが人神の力は危険だ。だから二つに分ける。濃縮の力と拡散の力を持つゼスを二人作る。」
「二人って…どういう…?」
「あるだろう、そういうシステムが。双子だ。」

「ちょっと、こんな時に何処行くってのよ?」
「一応ローラにも言っておいた方がいいだろ。親玉に挨拶しに行くってね」